前回、ペグについての説明をしました。
今回はペグの具体的な種類について見ていきたいと思います。
ペグは弦を巻きつける部分は基本どれも一緒なのですが、つまみの部分でデザインが様々にあります。それらは昔から様々なタイプが作られていたようで、おそらくは納入先や楽器のグレードに合わせて、貴族の受注した装飾楽器には装飾的なペグを、一般楽師用や修道院などへは簡素なタイプのペグを取り付けていたのではないでしょうか。
現在は「ジャーマン(スタンダード)モデル」「フレンチモデル」「スイスモデル」「ヒル(イングリッシュ)モデル」「ハートモデル」などといった一般モデルと、特別に装飾が入ったモデルがあります。
©DICTUM German Model, Ebony, Violin 4/4
©DICTUM French Model, Ebony, Violin 4/4(ジャーマンモデルよりつまみが広い)
©DICTUM Swiss Model, Ebony, Violin 4/4(ジャーマンモデルよりつまみの縁が薄い)
©DICTUM English Model, Ebony Pin, Ebony, Violin 4/4
©DICTUM Heart Model, Horn Trim, Ebony, Violin 4/4
「ヒルモデル」という名はイギリスで最も有名なバイオリンディーラーであるヒル商会が作り出したモデルだからと言われます。
また、ジャーマン・フレンチ・スイスモデルには、つまみの頂点にそれぞれの飾りを設けているものもあります。
©DICTUM 左からパールアイ・パリジャンアイ・菱形象嵌(ダイヤ)・金冠 の飾り
これらが黒檀やローズウッドなどの素材別でも作られていますし、ハート・ヒルモデルはつまみと弦を巻き取る部分の境目にある飾りなども違う素材の飾りをつけたりしますので、一般モデルだけでもかなりの数の種類が存在することになります。
そして、TempelやBogaro & Clemente等といったメーカーが作っている装飾ペグがあります。
© Tempel Feine Bestandteile
これらはご想像のとおりに高価です。
そして、元々はメトロノームメーカーだったドイツのWittner(ウィットナー)というメーカーが作り出した「ファインチューンペグ」という機械式のペグもあります。
© Wittner Fine Tuning Peg, Plastic, Violin 4/4 - 3/4
このペグは押しながら巻く必要も無く、つまみを回した角度よりも少なく弦を巻き取るのでテールピースにつけるアジャスターのように調弦できます。
発売当初は黒いプラスチックのものしか無かったのですが、今はローズウッドの模様にしてあるつまみのものもあります。(色だけで素材はプラスチックです)
そしてなんと、1/2と1/4にも対応した大きさのものもあります。
また、Perfection pegsという、ファイチューンペグと同様のものもオーストラリアのメーカーが作り出しています。
こちらはつまみ部分が普通のペグと同じ木材で作られているものもあります。
このように、ペグは様々なタイプのものがあります。おそらくフィッティングパーツの中では一番種類が多いのではないでしょうか。
機能による違いはファインチューンペグのような機械式以外はすべて大きくかわりません。素材がボックスウッドのものは若干柔らかいので、楽器への負担が少ないということでよくオールド楽器に使用されると以前お話しましたが、それでも黒檀のペグを使用しているストラディバリウスも存在しますので気にする必要は無いと思います。
楽器に他する負担に関してはきちんとフィッティングされているかどうかのほうが重要です。
また、「重いものを使用するほうがはっきりとした発音になる」とも言われますが、体感出来るほど変化があるかどうかは楽器による相性などもあり、断言できません。
なので、ペグを選ぶ際に最も重視するべき点は「好み」だと思います。特に「つまみがしっかり平らなものが良い」とか、あるいは「膨らみがある方が良い」などの手触りに気を配ったほうが良いでしょう。
あとは「見た目で高級そうなものが良い」とか「形が気に入っている」とかになります。
多くの高級な楽器にはハートモデルやヒルモデルがよく使われていますが、決してその他のモデルの程度が低いというわけではありません。この辺は「バイオリンの銘木たち」で「良心的な販売店は高価なフィッティングパーツをセッティングすることで楽器の価格を釣り上げるようなことはしませんし、性能が同様で品質が良ければインド産や中国産も使用します。」と言ったのと同様で、フィッティングパーツのモデルの違いだけで楽器の良し悪しは語れません。
ハートモデルを使用して楽器の価格を釣り上げる楽器店があるのも事実ですので気をつけましょう。
次回はテールピースについて解説していきたいと思います。
出典・参考文献
Fausto Cacciatori 監修:Museo del Violino 出版:「Antonio Stradivari / disegni modelli forme」
More than Tools|Dictum https://www.dictum.com/en/
Tempel Feine Bestandteile https://www.tempel-germany.de/index_e.htm