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三大作家のF孔デザイン

 バイオリン製作で三大作家といえば、「ニコロ・アマティ」「アントニオ・ストラディバリ」「ジュゼッペ・グァルネリ ーデル・ジェズー」ですね。

 彼らの楽器は後世のメーカー(個人製作家や工場)がそれぞれを手本として数多くのバイオリンを製作してきました。かく言う私も「ストラディバリ」と「デル・ジェズ」のデザインを模倣して製作しています。

 それらは特に工場製品で「~モデル」として定着し、多くの楽器が世に出てきました。

 でも、素人目にはメーカー側がモデルを表示していないとピンとこない場合もあると思います。

 そこで、一番簡単な見分け方として、F字孔のデザインの違いをお教えしたいと思います。

 F字孔とは、楽器の中心にある駒の左右に開いている細長い穴で、文字通り、アルファベットの「」の形をしている穴です。

(「」じゃあないですよ。真ん中にちゃんと左右に飛び出している所があります。)

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 この穴のデザインがすごくわかりやすい形でそれぞれ特徴があるのです。

 以下の図はそれをひと目で分かるようにしてみました。

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 つまり、上下の羽のような所の形がそれぞれで特徴的なのです。

 羽の形を伸ばしてみると・・・

 「ニコロ・アマティ」モデルのF字孔は交差するように進み、

 「アントニオ・ストラディバリ」モデルのF字孔は平行に進み、

 「グァルネリ ーデル・ジェズー」モデルのF字孔は広がって進むのです。

 実はこの形は彼らの代表的な楽器がこのようなF字孔の形をしているからで、決して彼らが作った楽器全てがこの特徴を持っているわけではありません

 例えば、ストラディバリの初期の楽器は師匠のニコロ・アマティの影響を多大に受けているので、アマティによく似て交差していくようなF字孔もあります。

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Antonio Stradivari 1699 「Clisbee」

 デル・ジェズの楽器でもストラディバリのように平行になるF字孔があります。

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Giuseppe Guarneri "del Gesu'" 1731 「Baltic」

 ですから、この見分け方はあくまで工場製品のモデルによくある特徴と思ってください。

 工場製品はそれぞれの作家の特徴をはっきりと出すことで、複数の明確に違うタイプの楽器を作り、幅広い顧客の希望に合わせた付加価値をつけています。また、最も有名で高額な楽器のモデルを作ることで、顧客の憧れや安心感、「良い音がするかもしれない」という期待感をもたせる狙いもあります。

 個人製作家が選ぶ基準は、私の偏見ではありますが、最も大きい理由は「好きな楽器」だからだと思います。他にも工場製と同様に、ストラディバリやグァルネリのモデルであれば売りやすいという側面もあります。

 なお、個人製作家が誰かのモデルを模倣して作る場合、一般的にはより具体的に特定の楽器全体を模倣します。

 例えば、アントニオ・ストラディバリ 1715 「il Cremonese」を模倣すると決め、オリジナルの写真から楽器本体の形を模倣した型を作り、ネックやF字孔のテンプレートもオリジナルの写真から転写して作ります。さらに響板の隆起や厚み、横板の高さ、パフリングの入れ方等に至るまで細かい数値や形を模倣します。(当然製作家によって程度の差はありますが)

 ところで、最も模倣されている作家は・・・言わずと知れた「ストラディバリ」です。

 やっぱり人気というか、価格というか、皆が憧れるのは当然なのでしょうか。

参考文献

 INSTRUMENTENBAU - ZEITSCHIRIFT Hans Edler著 「GEIEN -F- MODELLE」

 JOST THONE VERLAG 「Antonius Stradivarius」

 PETER BIDDULPH 1998 「Giuseppe Guarneri del Gesu'」