サイトへ戻る

楽器の選び方 まとめ

 さて、ここまで楽器の価格についても詳しく見てきました。

 そこで、もう一度楽器の選び方についてまとめたいと思います。

 まず、楽器を選ぶ上で最も重視しないといけない事は自己満足度が高いかどうかです。

 その自己満足は「価格が安い(高い)」でも、「良い音がする」でも、「骨董価値がある」でも、「イタリア(あるいはそのほかの地域)製」でも、「先生が勧める」でも良いのです。

 要は自分が満足することをしっかりと見極めて、目的意識を持って楽器を選んでほしいのです。

 その上で、いくつか私が思いつくもので注意するべきことを挙げたいと思います

 安い楽器

 初心者用として20万円以下の楽器を用意しているお店も多いと思います。

 注意すべきは、単純に安ければ安いほど楽器としての性能は低くなると思って下さい。ここでの性能とは、弦間がそろっていないとか、駒が低い(高い)といった楽器の調整や、ネックの接着が甘いとか、バスバーがきちんと作られていないといった製作精度のことです。価格が安くなればなるほど、調整や製作がきちんとされていない確率が高くなります。

 きちんと調整がされていない、きちんと作られていない楽器は近いうちに故障したり、演奏で様々なストレスを抱えることになり、それを修理するとなると思った以上にお金がかかるということは知っておいてください。

 また、調整されていても必要最小限しか行われませんので、望む音は期待できないと思っておいたほうが良いと思います。

 良い音がする楽器

 良い音とは、個人によって変わる主観です。そのため、万人が良い音と認めるものは存在しません。つまり好みです。

 はっきりとした輝かしい大きな音がする楽器が好みの人もいれば、優しく温かみのある小さな音がする楽器が好きな人もいます。違う言い方をするなら、甲高くうるさい楽器が嫌いな人もいれば、こもった小さな音のする楽器が嫌いな人もいます。

 また、自分の演奏する環境も考慮に入れる必要があります。オーケストラや室内楽で演奏する機会が多い人が、音量が大きく華やかな音のする楽器で演奏すると、自分ばかりが目立ってうまく調和できないことがあります。

 逆にソリストやコンマスが音量の小さく優しい音のする楽器で演奏しても、聴衆には演奏が聞こえないかもしれません。

 自分がどんな音が好みで、どんな音がする楽器を求めているかをしっかりと自覚してから探してください。でないと、いらない出費や後悔をしてしまう可能性があります。

 そして、価格が高いからと言って音が良いわけではありません

 価格の高い楽器の方が確率的に多くの人が良い音がすると思う楽器が多いだけのことで、価格の設定はその楽器の製作者(メーカー)であったり、製作精度であったり、骨董価値などで価格が決定しています。

 上述のように価格が高い楽器のほうが性能(製作・調整精度)は高くなりますが、決して音を基準に価格を決定しているわけではありませんから、「高額なので音が良い」と言うようなお店には気をつけましょう。

 骨董価値がある楽器

 はっきり言って骨董価値がつく楽器は新作楽器を含め個人製作家が作った楽器、いわゆる「マスターメード」の楽器に限ります。

 工場大量生産品は骨董価値がほとんど上がりません。上がるとしても100年以上かかってからちょっとずつ上がる程度です。

 よく、古い楽器で30万円~50万円位でフランスやドイツの工場製品がありますが、これらはほとんど価値が上がっていないので古くてもこの価格なのです。なので、今後価値が上がっていく可能性は低いと思っておいたほうが良いでしょう。もし、価格が上がっていたとしても、物価が上がったので見かけ上価格が上がっているだけで、価値はほとんど上がっていません。

 つまり、その楽器が新作で発売されていた時は、今の物価に換算して30万円~50万円位で販売されていたということです。

 そのため、そこそこの価格であっても工場製品に骨董価値はありませんし、今後価値が上がっていく可能性は無いとは言いませんが低いので注意してください。

 他にも、骨董価値のある楽器がほしい方はそれなりに勉強している方が多いでしょうが、自分の知識は当てにならないと思っておいてください。

 バイオリンの鑑定は信じられないほど難しいので、鑑定が出来る人・楽器の真贋を見抜ける人は世界中でも限られた人数しかいません。彼らは数十年という月日の中であらゆる楽器やあらゆる文献を勉強してきて、やっと楽器の鑑定・真贋の判別が出来るようになっています。何かの片手間で出来るほど簡単なことでありません。だからこそ、偽物が今でも横行しているのです。

 また、鑑定書の有無は楽器の真贋にはなりませんので気をつけて下さい。鑑定書がなくても本物はありますし、鑑定書がある偽物や偽物の鑑定書は数え切れないほどあります。

 なお、製作者の作った証明書は信頼が出来るものがほとんどですが、その証明書がその楽器に対して本物かどうかは別の話です。

 私達一般人が失敗なく骨董価値のある楽器を買うための最も有効な方法は信頼できるお店で買うことだけです。

 信頼できるお店とは、もし売った楽器が偽物とわかったら販売価格で買い取るか同等の楽器と交換してくれ、修理や調整のアフターケアが万全で、大きな破損などの特別な理由がない限り楽器を買い換える時に購入時の7割以上で下取りをしてくれるようなお店です。

 ただしこの条件は骨董価値のある楽器を買った時の条件であり、骨董価値のない楽器の場合は下取り価格は2割以下になる場合もあります。(つまりは骨董品ではなく中古品として扱われます)

 個人やネットオークションでの売買

 個人売買やネットオークションでの売買などは初めから故障や調整の不備があったり、アフターケアに不安があったりします。楽器の修理は案外高額になりますのでその事を十分承知の上で取引して下さい。

 また、大掛かりな修理を行った場合には音の変化が多少なりともあることを知っておいて下さい。

 真贋などの問題もありますから、骨董価値のある楽器を買うことと同様、信頼できるお店で買うことが最も失敗の少ない方法と言えます。

 そして最後に、買わない勇気も持って下さい。

 もしかしたら現在持っている楽器も、きちんと調整を行ったら自分好みの音になるかもしれませんし、場合によっては気が付かないところが壊れているかもしれません。

 気長に待てるのなら、まずは自分の楽器の弦を違うものにしてみるなど、少ない出費で出来ることを模索してもいいと思います。

 また、音に不満があるなら楽器店で相談するのも良いでしょう。ただし、壊れていたら「なおした方が良い」と言われると思いますが、壊れてもいないのに「絶対こうしないといけない」と修理や調整を強要するようなことを言ってくる楽器店であったら依頼するのはやめておきましょう。

 相談は無料で対応してくれるものですし、依頼者が求めもしないことを強要するお店は信用できません。

 それから、音調整などは繊細な調整があるために元の音に戻せない場合があります。どんなに素晴らしい調整ができる修理人でも、「元の音に戻して下さい」と言われるのが最も困りますし、実際に元には戻せないことがありますので、そこだけは承知しておいてください。

 みなさんが良い楽器に巡り会え、音楽活動を楽しんで頂けたらと思います。