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滞在許可証と学校生活

 何とか入学許可証を手に入れ一時帰国した私たちは、在イタリア領事館へビザの発行を申請に行きました。

 日本国内のイタリアの出先機関は2つ在り、在イタリア大使館と在イタリア領事館です。

 日本の東側を管轄している在イタリア大使館は東京にあり、日本の西側を管轄している在イタリア領事館は大阪にあります。

 管轄は出生地で判断され、私たちは共に大阪の在イタリア領事館での手続きでした。

 そして、この機関は日本国内と言えどもイタリア領ですから、対応もイタリア流です。

 一番驚いたのは窓口の人の心象がルールであるということです。

 列の一番最初に並んでいた人が窓口に立ってその担当者の前でカバンから各書類を出そうとしたときに

 「そういった準備はここに来る前にしておいて下さい。次の方~」

 と後回しにされた時には並んでいた人全員がものすごい勢いでカバンから書類を出しましたね。

 実際イタリア国内でも窓口担当者の裁量権は大きいです。

 (というより裁量権の大きい人が窓口を担当している?)

 私も警察で滞在許可証を出してもらうために専用窓口に何度も並びましたが、同じ書類を揃えても大体男性職員の方が大目に見てくれて、女性職員の方が融通が利かずに再出頭させられたりしました。

 また、同じ日に同じ書類で窓口チェックを受けたにもかかわらず、妻と滞在許可証の有効期限が半年違ったこともありました。

 まあ、領事館ではそんな軽い洗礼を受けたりしましたが、特に問題もなくビザが下りました。

 ただよく勘違いされることなのですが、留学ビザは現地での滞在許可証を得るために必要な物であり、ビザだけで全留学期間の滞在を許可されているわけではないのです。

 そして、そんなイタリアの滞在許可証発行は、当時はとても時間がかかることで有名で、ご他聞にもれず私の時もとても時間がかかりました。

 2007年8月中頃に申請して、最初の出頭が2008年の2月1日、つまり約半年間放置です。

 それから指紋登録とかで警察署の外国人専用窓口で長い列に何度も並び、結局発行されたのは4月19日でした。

 ちなみに、滞在許可証に記載されている発効日はちゃっかり申請した2007年の8月になっていました。(さすがイタリア・・・)

 ところで、滞在許可証の有効期限は発効されてからでないとわからないのですが、その時の私の期限は6月9日になっていました。(たぶん学期の終わるころだからだろうと思います)

 つまり、受け取ってから一ヵ月半後に滞在許可証の有効期限が切れるって事になります。

 こんな感じで外国人は滞在許可証とパスポートを常に携帯しなければいけないはずなのですが、イタリア警察のせいで携帯することもままならない状態だったのです。

 ただ、そのかわりに滞在許可証を申請したときの本人控え(みんなはよく半券と言っていました)を持っていればそれが代わりになるようになっていました。しかし、申請さえすればもらえる半券で約半年間滞在出来、そして許可されなくてもまた申請すれば半券はもらえるわけですから、それが不法滞在の温床になったりもしたので、現在では当時よりは早くなっています。

 そういうことなので、4月にやっと滞在許可証が手に入ったのですが、6月9日には早速更新に行きました。

 当時のイタリアのシステムは郵便局から書留で各警察署に送るシステムで、郵便局で専用キットをもらうのですが、その記入がとても難しいのでほとんどの人は支援団体にお願いします。
(初めてのときは郵便局でキットをもらった時に支援団体をいくつか教えてもらえたりします。)

 私が行った所はイタリアで最も大きい労働組合団体の一つである CGIL って所にお願いしました。
 教会系の支援団体とかも多いようです。

 このように滞在許可を手に入れるのにもなかなかに大変でしたが、実はイタリアを含むシェンゲン協定締結国は、観光・出張などを目的とした短期滞在(180日間のうちの90日以内)用の圏内共通のビザである「シェンゲン・ビザ」を日本国発行のパスポート保持者に免除しています。

 まあつまり、日本人はビザ無しでも3ヶ月間はEUに滞在できるのです。政府の外交努力と先人の礼儀正しさのおかげですね。

 また、イタリアでの生活自体はいたって簡単で、スーパーマーケットなどで買い物をするだけならイタリア語を一言も話さなくても買う事が出来るので楽勝です。ですので、イタリアで3か月滞在するだけなら金銭的余裕があれば誰でも簡単に可能だったりしますよ。

 さて、滞在許可証でああだこうだとしているうちでも、学校は始まりますので通うわけですが、クレモナのバイオリン製作学校は日本の一般的な学校と大きく違うところがいきなり初めにあります。

 それは、式典が無いこと。

 つまり、入学式から始業式、終業式、卒業式に至るまで全く式典をやりません。

 なので、初日でいきなり授業が始まります。

 ただ、いきなり授業では何時、何処に、何を学びに行かなければいけないかがわかりませんから、事前に学校の掲示板を確認しておかないといけません。

 そうなると、間に合わないとか勘違いしていて授業にいない人も出てきます。

 でも大きな問題になりません。なぜなら、必要な出席率が6割となっているため、ちょっとぐらい、いや、結構休んでいても落第しなかったり卒業出来たりします。(今はどうか知りませんよ)

 実は前回お話した6月にあった入学試験は、来れなかった人のために8月にも行っていて、その試験を受けていた人は本国での手続きとかがあるので9月の始業に間に合いません。

 それでも、問題無く進級できるわけです。

 そんな感じで日本の一般的な学校とは違い、とってものんびりした感じで学生生活が進んでいきます。

 前回お話したように、クレモナのバイオリン製作学校は日本の高専とだいたい同じ立ち位置ですから、始めの3年間は高校の一般教養科目の比率が多かったです。

  • Italiano: イタリア語
  • Storia: 歴史
  • Scienza: 科学
  • Matematica: 数学
  • Inglese: 英語
  • Diritto ed Economia: 法律・経済
  • Religione cattolica: 宗教(カトリック:道徳的な側面が強い)
  • Educazione fisica: 体育
 といった科目が始めの3年間では多くありました。

 他にバイオリン製作に特化した教科として

  • Disegno: 製図
  • Fisica acustica: 音響物理
  • Studio dello strumento: 楽器演奏
  • Culutura musicale: 音楽史・楽典
  • Tecnologia dei materiali e dei processi produttivi : 木工技術知識
  • Laboratorio di vernice: ニス
  • Laboratorio di manutenzione e riparazione: セットアップと修理
  • Laboratorio di liuteria: バイオリン製作
 となっていました。

 さらに4・5年生になるとバイオリン製作は以下の3つのコースを選択することになります。

  • Laboratorio di liuteria: バイオリン製作
  • Laboratorio di pizzico: 撥弦楽器製作(リュート・マンドリン・ギター・ハープなど)
  • Laboratorio di restauro: 修復
 その上で、外部からマエストロが来てバイオリン製作を学ぶ授業もあります。

 私達は日本でバイオリン製作と修理をすでに学んでいたのと、コース選択しても外部のマエストロからバイオリン製作が学べることから、撥弦楽器コースを選びました。

 その中で瑞穂はリュートを、私はクラシックギターを製作しました。

 それらの楽器は今でもクレモナの学校に残って、過去の学生たちが作った楽器のうちの一つとして保存されています。

 ただ、このコースは不人気で、私達の時は選択する学生が多かったのでたまたま出来ました。その時のマエストロはEzio Scarpiniというサンタクロースみたいな風貌の人で、今はすでに引退してしまったので、もしかしたらもうコース自体が無いかもしれません。

 卒業前には卒業論文を作らなくてはならず、イタリア語の先生が私達外国人の拙いイタリア語を頑張って直してくれます。真面目な学生は早い段階で小出しに先生のところに持っていくのですが、不真面目というかズボラな学生はギリギリの所で一気に先生のところに持っていくので、先生もキリキリしていました。

 私の卒業論文のテーマは「ノコギリ」、妻は「リュートのロゼッタ」でした。

 この論文についてはまたの機会にお話したいと思います。

 そして、最後に卒業試験があります。

 卒業試験:Esame は今までの教官が並んだ前で、口頭でやり取りし合否を決めます。

 聞かれる内容は今まで習ってきた内容や卒業論文についてです。

 ただし、今までの授業態度や出席率、定期試験などですでにほぼ合否は決まっています。実際、明らかに合格できる人しか卒業試験を受けれないので「卒業試験を受けられる=卒業できる」といった感じです。

 卒業式がない分、この卒業試験がある意味式典のような感じでした。

 さて、晴れて卒業できたわけですが、卒業式が無いので卒業証書(ディプロマ)はもらえていません。

 どうするかと言うと、事務局に申請して作ってもらいます。案外ぼんやりしてそのまま帰国しちゃった人もいるんじゃないでしょうか。

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 この卒業証書、実は最終成績も記載されています。

 私は80点、妻は85点でした。

 「そこそこ良い点で良かったー」と思いましたよ、ええ。

 ちなみに、日本と違ってこの証書が本当の証明書で、「卒業証明書」が必要な場合は卒業証書のコピーが卒業証明書となります。

 日本は賞状的な卒業証書は卒業証明書では無いですよね。(使えるのかもしれませんが)

 学校生活はこんな感じでした。

 この学校生活の中で、イタリアは日本とは大きく文化や考え方が違うことを実感しました。

 まだまだ色々あったのですが、それはまたの機会にしたいと思います。