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留学試験

 イタリアの学校は入学試験を6月に行います。

 日本は4月が入学時期ですが、西洋諸国は9月が入学時期ですので、バカンス前の6月に試験を行うのです。

 私たちはそれに先立って4月にイタリアに渡ったのですが、まず問題になったのが住むところでした。

 もちろんホテルに泊まればいいのですが、2カ月間ホテル住まいでは今後の留学費用が底を尽いてしまいます。

 そこで、先に留学している友人にお願いして、まずは1週間ほど激安宿を予約してもらい、その後はその友人と同じアパルタメント(appartamento:賃貸住宅)に住むことにしました。

 この宿は教会が運営している一つ星のホテルで、難民や生活苦の人々も受け入れているところです。そのため、サービスは必要最小限で、部屋の清掃やルームサービス、電話やテレビもありませんでした。日本では考えられないでしょうが、部屋のドアの鍵もかかりませんでした。フロントに確認すると「それが何か?貴重品は持ち出せばいいでしょ?」と言われ、他人が自由に入れると思うと気軽に外出もできず、買い物と食事以外は外出を控えるようにしました。

 そんな感じで1週間を過ごしたのですが、アパルタメントに入居してからもなかなか大変でした。

 クレモナでの電気、ガス、水道、ゴミ等の公益事業は、当時 AEM というところが一手に引き受けていて、部屋を普通に賃貸する場合には必ずお世話になるところです。(ホームステイや寮に入れば必要ないですが)

 私がアパルタメントに入った時は友人を通じて開栓をたのんでおいてもらったのですが、開栓に来られる日は入居した日の3日後で、それまで暖かいものは食べられず、トイレ、シャワーも友人の家で借りねばなりませんでした。(日本だと即日開栓も可能ですよね)

 3日後にやっと開栓してもらえると思ったら、ガスの配管部分の壁に穴があいていて「ここを埋めないとガス漏れしたときに危険なので開けることは出来ないね」と言われてしまいました。(水と電気は大丈夫でした)

 これは早く埋めてもらわないと!と、管理人さんにうまくしゃべれもしないイタリア語で何とか伝えると、「今日は直せないから明日ね」と言われ(ちなみに管理人さんは通いで別の場所に住んでいる)、二日たっても来ず、なんとか見つけて「いつ来るの!」と聞いたら「あ、明日・・・」、「何時に!」「・・・9時には」と少しキレ気味で話をしてやっと次の日に直してもらい、それから3日後にやっとガスを開けてもらいました。

 結局入居してから一週間以上不自由な日々を過ごしたわけです。

 イタリア人の良く言えば呑気さを入居早々に肌で感じたものでした。
 

 ちなみに、AEMからの料金の請求は3ヶ月~半年ぐらいの間隔でやってきて、メーターの検針も半年~一年の間隔で検針にやってきます。検針してない分は予想で請求してくるので、場合によっては多く払ったりするのですが、次の請求で帳尻を合わせています。

 ヨーロッパの他の国も似たようなものらしいので、日本のように毎月検針に来る方が珍しいのでしょうね。

 「Giapponesi sono i precisi.(日本人は几帳面だ)」とよく言われましたが、こっちとしては「お前らの方がズボラなんだよ!」と言いたいところです。

 さて、取り敢えず住むことが出来るようになり、その後はいたって平和にイタリア語を独学しながらのんびりと過ごして入学試験を迎えました。

 クレモナのバイオリン製作学校は一般的にはScuola di Liuteria(バイオリン製作技術の学校)と呼んでいましたが、正式名称が当時はI.P.I.A.L.L.(Istituto professionale internazionale per l’artigianato liutario e del legno "Antonio Stradivari" Cremona)という長い名前でした。

 現在はI.I.S. (Istituto di Istruzione Superiore "Antonio Stradivari" Cremona)という名前です。

 就学年数は5年あり、日本の高等専門学校と同じような位置づけで、1年生から入学するのであれば6月に実施されるイタリア語の面接を受けるだけで入学が可能でした。(現在は年齢制限があるようです)
 しかし、国内外を問わず、高校卒業以上の学歴があれば編入試験を受けて2年生、3年生に編入することも出来ます。

 これは、飛び級試験もかねているので1年生をやった人が3年生に飛び級するときも同じ試験を一緒に受けます。

 なお、1年→3年以外は飛び級出来ない、つまり4・5年生には飛び級できません。これは、3年生終了が一つの区切りになっていて、3年生終了だけでもディプロマがもらえるようになっているからです。(日本での高校卒業と同等)

 当時私が受けた試験は、以下のものでした。

  • Italiano(イタリア語面接) イタリア語で自己紹介とか入学志望動機とかを話し合います。
  • Cultura Musicale(音楽文化知識) 各調のスケールや転調、簡単な作曲などの楽典知識。
  • Disegno(デザイン) 定規とコンパスでの簡単な作図とフリーハンドでf孔を描く。
  • Tecnologia(木工知識) 木の種類や各部の名称、特徴、力学等の木工に関する専門知識。
  • Violino(Vn.演奏) スケールと曲の演奏。(曲は事前に自分で指定できました)
  • Laboratorio(木工技術) 白木での指版作りと平のみの研ぎ。

 試験内容は毎年同じ事をするとは限りませんが大体同じようなことをすると思います。

 昔はこの編入試験は採点基準が甘く、大学卒だったりするとそれほど成績が良くなくても(イタリア語がほとんど話せなかったとしても)3年生に編入できたようですが、年々厳しくなり、少なくともイタリア語がしゃべれて、木工技術が出来無いと3年生には入れなくなっているようです。
(事実、イタリア語がペラペラなフランス人やイタリア人まで1、2年生に落とされていました)

 結局、このすべての教科は入学してからまたやりますので、何よりも授業内容を理解するイタリア語力と習得に時間のかかる木工技術が重視されるようです。

 ただ、いくら重要ではないからといってイタリア語と木工技術以外の教科を白紙で提出なんてやると1年生行き間違いなしですが。

 試験の雰囲気は日本とは違いとてものんびりとしていて、厳しく試験官が生徒の廻りを巡回することなどまったくなく、場合によっては試験室からいなくなることすらあります。
 そんなんでいいのか?と思ったりしますが、通常の学校の試験もこんな感じなので、いいんでしょうねぇ。

 試験期間も6月だけかと思ったら6月に来られなかった人対象に9月にも試験があるみたいで、それを受けて学校に来るのが1ヶ月くらい後になった人もいました。

 クレモナの製作学校はとにかくのんびりというか受け皿が広いというか、試験とかも決まった日に受けられないと入学自体がダメとか、進級自体がダメって事があまりなく、後で何とかなったりしました。

 そんなこんなで試験も終わり、私達はイタリア語がまるっきりダメでしたが、木工技術を評価してもらえたのか、2年生の編入に合格できました。

 しかし、最後の最後に落とし穴があったのです。

 試験に合格した人はビザを発行してもらうために必要な入学許可証がもらえるのですが、そのためには郵便局で1年分の税金を納めた証書が無いともらえないのでした。

 試験発表の日が土曜日で、郵便局は午後に閉まります。しかもそんなことを知らない私達は次の日にビザを発行してもらうために一時帰国する予定で飛行機のチケットを取っていたのでした。

(ビザは国籍のある国、つまり日本にある在イタリア大使館や在イタリア領事館で発行されます)

 試験発表は11時過ぎの予定が遅れて12時、「もう無理やん」と思っていたら、他の日本人の入学を手伝いに来ていた先輩留学生が声をかけてくれ、言葉の不自由な私達の代わりに窓口に掛け合ってくれて、直接現金でなんとか入学許可証を出してもらえたのでした。

 いや~もうね、余裕は必要よ、イタリア留学には。

 そんなこんなでとにかく日本とは違う文化をひしひしと感じた2ヶ月が終わり、イタリアを一時後にして一路日本へと帰国したわけですが、後から思えばこんなのは長かったイタリア生活では序の口でしたよ。

 次回、入学するまでとイタリアでの学生生活についてお話をして、私の留学奮闘記(?)を終わりにしたいと思います。