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Antonio Stradivariの肖像②

前回に引き続いてアントニオ・ストラディバリの肖像についてお話しています。

まずはおそらく有名画家が描いた最も最近の絵がこちらです。

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"ANTONIO STRADIVARI" Alton Stanley Tobey (1914 - 2005) Violin Iconography of Antonio Stradivari

この絵はViolin Iconography of Antonio Stradivariという本の挿絵で、絵画や壁画で国際的に知られるアメリカの画家、Alton S. Tobeyが描いたものです。

彼は1957年に始まったライフマガジンの表紙も描いており、壁画はイーストハートフォードの郵便局や図書館、ハートフォードのキャンプフィールド図書館などコネチカット州の多くの建物の壁を飾っており、ワシントンDCのスミソニアン博物館にも彼の壁画が展示されています。

後ろに掛けてある工具なども、アントニオ・ストラディバリが実際に使っていたものがあったりして、しっかりと研究してから描いているのがわかる力作となっています。

おそらく当時のディーラーや製作家などから教わったのでしょうね。

次は19世紀、イギリスの画家です。

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"Antonio Stradivari at work in his studio" Edgar Bundy (1862 in Brighton – 1922 in London) 1893

この絵を描いたEdgar Bundyは正式な教育を受けておらず、彫刻家のAlfred Stevensのスタジオに出入りして絵の描き方を学んだと言われています。それでも、晩年にはRoyal Academy of Arts(王立芸術院)で展示されるほどの名声を得ています。

彼は他にもストラディバリを主題に絵画を描いていますので、お気に入りのモチーフだったのかもしれません。

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"Stradivarius In His Workshop" Edgar Bundy

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"Stradivarius In His Workshop At Cremona" Edgar Bundy

そして、過去ストラディバリの末裔からもアントニオ・ストラディバリの肖像として信じられていたこの絵です。

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"ANTONIO STRADIVARI" Frédéric-Désiré Hillemacher (1811–1886)

19世紀の画家が書いた絵ですから想像で描いたと思われるかもしれませんが、実はこの絵は過去に描かれた絵を元に模写したものです。その証拠にこの絵には「Ant. Campi pinx. Crem. 1681」と、ところどころ略して書かれています。

これは略さずに書くと「Antonio Campi Pinxit Cremona 1681」であり、「アントニオ・カンピが1681年にクレモナで描いた」と言う意味になります。

Antonio Campi:アントニオ・カンピ (1524 – 1587) は、クレモナで最も有名な画家の一族であるCampi家(父Galeazzo、兄弟VincenzoとGiulio)の一員で、宗教画や肖像画を描いた人物です。

クレモナでもSan SigismondoやSan Pietro al Poなどの教会に絵画が残っており、ミラノやニューヨークの美術館にも絵画が収蔵されている人物です。

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アントニオ・カンピがクレモナのサン-シギスモンド教会に描いたフレスコ画

でも、気が付いた方もいらっしゃるかと思いますが、アントニオ・カンピは1681年にはすでに死んでいます。

では誰の絵を元にしたのか?

Hillemacherが元にした絵は恐らく構図やポーズなどから、作者不明のこの絵を模写したのだと思われます。

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"Portrait of a musician" by a Cremonese painter. circa 1570 –1590

「音楽家の肖像」クレモナの画家(作者不明)

もうこの時点で明らかにこの絵はアントニオ・ストラディバリを描いたものではないのがわかります。

なぜなら、この絵が描かれた1590年頃にはアントニオは生まれていません。

アントニオ・ストラディバリが生まれたのは1645~1649年頃と言われています。

そして、題名にもあるように音楽家を描いたものです。

現在は様々な検証結果から、この絵は高い確率でこの頃のクレモナ出身の音楽家であるクラウディオ・モンテヴェルディ(Claudio Giovanni Antonio Monteverdi, 1567 - 1643)の若い頃を描いたのであろうと言われています。

この絵がどこで間違ってアントニオ・ストラディバリとなったのかははっきりしていませんが、クレモナの銀行が1870年に発行した銀行券に絵が載っているのが証拠だとストラディバリの末裔の方が主張していたことがありました。

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銀行券 50 Centesimi 中心の人物画の下に「STRADIVARI」と書いてある

このことはイギリスの伝説的なディーラーであるW. Henry Hillが書いた「Antonio Stradivari HIS LIFE & WORK」という本の最後の章「A Supposed Portrait of Stradivari. (ストラディヴァリとされている肖像画)」に書かれています。

In replying to us, Signor Stradivari stated that the photograph was a faithful copy taken from the original painting, which had always been accepted by his family as undoubtedly a portrait of his ancestor; and, as further proof of the correctness of his belief, he sent us a small bank-note of the face value of fifty centesimi issued by a Cremonese Bank in 1870, on which the said portrait was reproduced.

P. 280 Chapter XII. A Supposed Portrait of Stradivari.

ストラディヴァリ氏(ジャコモ・ストラディバリ)は、私たちに返信する際に、その写真は原画の忠実なコピーであり、それは彼の家族によって彼の祖先の肖像画であることは間違いないと常に受け入れられていたと述べ、彼の信念の正しさをさらに証明するものとして、彼は1870年にクレモナの銀行によって発行された額面50チェンテージミの小さな紙幣を私たちに送ってきた。

このように、ストラディバリの末裔は長らくこの絵がアントニオ・ストラディバリだと信じていました。

しかし、W. Hillはこの本が1902年に書かれた当時で、衣装・楽器・楽譜・ペンとインクボトルなどの特徴から、描かれたのは16世紀後半であることを指摘しています。

さらにこの絵の人物が持っている楽器はペグの多さと弓からヴィオラ・ダ・ガンバですので、モンテヴェルディがヴィオラ・ダ・ガンバ奏者でもあったことも証拠の一つとされます。

また、壁にかけられた楽器が16世紀ブレシア派の楽器の特徴を示していることも指摘しています。

そのことから描かれた人物がガスパロ・ダ・サロだと主張する人もいますが、W. Hillは手が職人のものではなく音楽家のものだとして、ガスパロの事は考えてもいないようです。

Hillemacherが描いた絵には背後と手に持っている楽器が変わっており、微妙に顔も違いますが、元にした画家の情報も正しくない絵なのでアントニオ・ストラディバリである信憑性は皆無です。

残念ながら彼が故意にねつ造したのか、誰かに騙されたかして作られた肖像画であるのは間違いありません。

そして、近年になるまで本当のアントニオ・ストラディバリの肖像であると信じられていた絵なのでした。

残念ながら、このようにアントニオ・ストラディバリの肖像は現在は想像のものしかありません。

彼は存命当時からお金持ちで有名でしたので「もしかしたら肖像画を描いてもらったかもしれない」と思っている人は多くいると思います。

今後、新発見があると面白いですね。

次回は銅像や彼にまつわるモニュメントを見てみたいと思います。

出典・参考文献

Herbert K. Goodkind: 「Violin Iconography of Antonio Stradivari」

Wikipedia

 Antonio Stradivari

 Antonio Campi

 Claudio Monteverdi

Wikimedia Commons

 Category:Antonio Stradivari

Wikioo.org The Encyclopedia of Infinite Art

Wahooart.com

CoInect.com Catalogo delle Banconote : Banconota › 50 Centesimi

W. Henry Hill:「Antonio Stradivari HIS LIFE & WORK」