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バイオリンが生まれる前の楽弓

 人類はコミュニケーションの手段として言葉と同様に音楽も使用してきました。
 それは人類の文化の発達に密接に関わっていて、かなり古代から使われて来ました。

 そのため、楽器の起源と言うのは突き詰めると全く手がかりがなく、わからないと言ってもいいくらい古代になってきます。

 これと同様に、擦弦楽器も古代から使用されていたと推測されていて、常に「おそらく」という前置きで語られます。

 これは、昔の楽器が現存していない物が多いので、絵画や彫刻、各地の民族楽器などから推察するしかないからです。

 また、擦弦楽器は撥弦楽器を何かで擦り音を出し初めたのが起源という研究者もいれば、むしろ擦弦楽器のほうが撥弦楽器よりも古くから使用されていたと言う研究者もいます。

 もともと弦楽器は現代の楽弓とは違う「楽弓(musical bow)」だったのではないかとされています。 これは楽器そのものが弓で、弓で張った「つる(弦)」を指ではじいたり、棒や別の小さな弓でこすって音を出していたのではと考えられています。

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Joueur de villu

 これは、インドの「Villu(ヴィル)」と呼ばれる楽器ですが、見ていただくとわかるとおり、擦っているのは弓矢状の棒です。 狩猟用の弓は手が滑るのを防ぐために手に松脂を塗っていたと考えられています。 その松脂のついた「つる」を弓矢で擦ると音が出たので、そのまま楽器にしたのでは?と想像できます。

 これを根拠に撥弦楽器より擦弦楽器のほうが先に生まれたと考えている研究者もいるわけです。

 ただ、この様に弓のままだと音は弦からの直接的な振動音だけですので、ほんの数メートル以内でしか聞き取れないほどの小さい音だったでしょう。
 そこで、口で加えるなどして音を空洞で増幅するようにし、そこから大きな果実をくり抜いたものを取り付けて共鳴胴にするなどに発展させたと考えられています。

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Obu man playing a musical bow : Nigeria

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three berimbau one pandeiro

 ある意味ここからが楽器としての発展の始まりです。

 おそらくアラブの「Rebab(レバーブ)」が洗練された共鳴胴のある擦弦楽器としては最古のものと思われています。 この頃の擦弦用の楽弓は弧を描く弓でした。

 この楽器がヨーロッパへ渡り、初期の「viola(ビオラ)」(フィドル)へと変わっていきますが、楽器の形態は変化していくものの、楽弓は大きく変化しません。

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Rebabs: from the Cantigas de Santa Maria c.1260

 と言うか、現物が残っていませんので絵画などで推察するしか無く、ほとんどの絵では楽弓の表現はデフォルメされた丸い弧を描く線に直線が描かれているものばかりで、詳細がわかりにくいのが現状です。

 その中でも、「Vielle(ビエッラまたはビィエラ)」と呼ばれる中世の楽器には、弓に張った毛を紐で縛って持ちやすくした様子が複数の絵で確認できます。

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Ormesby Psalter: c.1310

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Peterborough Psalter: Early 14th Century

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Melozzo da Forlì: 15th Century

  この楽器は12世紀の終わりには完成形となり、15世紀頃まで吟遊詩人達によって頻繁に使用されていたようです。

 この様に、ただの弧を描く形では持ちにくいので、持ちやすく、張りを持たせる工夫がされていったようです。 そのため、段々と弧の形も丸いものから平らになっていき、現代の楽弓に近づいていきます。

 そして、巻かれていた紐がフロッグへと進化していきます。

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Predis: Giovanni Ambrogio 1490

 これは15世紀頃の「lira da braccio(リラ・ダ・ブラッチョ)」と呼ばれる楽器です。 この楽弓には毛をフロッグと呼ばれる部品で張りを持たせています。

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矢印の部品がフロッグ

 このフロッグという部品を発明した時が、楽弓の歴史の中では大きな転換点だったと私は考えていますが、誰が考案したのかまったくもってわかっていないのは残念です。

 これ以降、ヨーロッパの擦弦楽器はフロッグを使用した楽弓が多数派となりました。

 おそらくこの頃は楽器の種類に関係なく奏者の使いやすい楽弓を自由に使用していたでしょう。

 つまりlira da braccioにはこの楽弓、viellaにはこの楽弓と決まっていたわけではなく、どの擦弦楽器にどんな楽弓を使っても問題はなかったと思います。

 ですので、この楽弓がこの後すぐに現れる「viola da gamba(ビオラ・ダ・ガンバ)」や、「violino(小さなビオラ)」つまりバイオリンに使用されるようになるのは必然だったのではないでしょうか。

 出典・参考文献

 Wikipedia

  Villu :https://fr.wikipedia.org/wiki/Villu

  Musical bow :https://en.wikipedia.org/wiki/Musical_bow

  Berimbau :https://fr.wikipedia.org/wiki/Berimbau

  Rebab :https://en.wikipedia.org/wiki/Rebab

  Viella :https://it.wikipedia.org/wiki/Viella

  Lira da braccio :https://en.wikipedia.org/wiki/Lira_da_braccio