今、ブラジルで起きている森林火災が話題になっていますね。
私はそのニュースを聞いた時に心配になったことがあります。
それは「フェルナンブーコは大丈夫なのだろうか」ということ。
楽弓の歴史について過去に見てきましたが、その中でスティックにはフェルナンブーコという素材を使用する様になったことをお話しました。
そして、現在でもフェルナンブーコという原産地がブラジルの木材を使用して楽弓は製作されているからです。
ところでそのフェルナンブーコという木はどんなものなのでしょうか?
Wikipediaには以下のように記述されています。
ブラジルボク(伯剌西爾木、学名Caesalpinia echinata)はマメ科ジャケツイバラ亜科の常緑高木。別名をフェルナンブコ、ペルナンブコ、ペルナンブーコ(Pernambuco)、パウ・ブラジル。以前は染料に用いられた。材が硬いため、現在もヴァイオリン属の楽器の弓材として用いられる。原産地は南アメリカブラジル東部。1540年にポルトガル人によってはじめて報告された。
ブラジルボク:ブラジル エスピリトサント州ヴィトーリアにて
ここで
「ちょっと待って、ブラジルボクってブラジルウッドのこと?それって安価な楽弓に使用されているフェルナンブーコの下位互換の違う木じゃあなかったっけ?」
と思った人もいるかもしれません。
それも当然のことで、実は日本ではフェルナンブーコとブラジルウッドは違う木としてカタログの原材料に記載されていることが多いのです。
しかし、本来ブラジルウッドとフェルナンブーコは同じものを指した名称です。
さらに、日本で楽弓の原材料として「ブラジルウッド」と言っているものはブラジルウッドではなくマサランデュバ(アマゾンジャラ、マニルカラとも)というブラジルウッドとは全く別の木です。
Manilkara bidentata
フェルナンブーコという呼び方は、フェルナンブーコ地方で採れる品質が良いブラジルウッドのことを「フェルナンブーコ」と呼んでいたことに由来します。
特に、フェルナンブーコ地方(州)はブラジルで最初の経済の中心地であり、ブラジルウッドの輸出が初めに行われた場所でもあるので、その商品が地名で呼ばれるようになったのは自然なことでしょう。
ちなみに「フェルナンブーコ(ペルナンブコ)」という地名の由来は現地語やポルトガル語を語源とするいくつもの説があってはっきりしません。
ペルナンブーコ州
ちょっとややこしくなったのでまとめると、こういうことになります。
日本の楽弓カタログに見られる素材名称 → 正式名称
- フェルナンブーコ → 学名Caesalpinia echinata:一般的にブラジルウッドと呼ばれる木
- ブラジルウッド → 学名Manilkara bidentata:一般的にマサランデュバと呼ばれる木
ちなみに、そのブラジルウッドの「ブラジル」とはポルトガル語で「赤い」という意味です。
もともとブラジルウッドはヨーロッパに赤い染料として輸入されていたことを「楽弓の完成形へ」の回でお話ししました。 その輸入を初めて行ったのがポルトガル人で、彼らが「パウ・ブラジル(赤い木)」と呼んでいたのでブラジルウッドと呼ばれるようになりました。
ここで気が付いた方もいると思いますが、ブラジルという国(または地方)で採れる木だからブラジルウッドではなく、このブラジルウッドが採れる国だから国名に「ブラジル」と付けたのです。
(1822年にブラジル帝国として独立し、1889年の共和革命以降はブラジル合衆国を国名としていたが、1967年に現在のブラジル連邦共和国に改称)
フェルナンブーコは、過去に染料として使用されていましたが、現在の需要は楽弓が最も多く、他にはピストルやライフルの銃床の材料としても人気があるそうです。
さて、そのフェルナンブーコは過度の伐採によって絶滅が危ぶまれている種でもあります。
ブラジルボクは過度の伐採により絶滅の恐れがあるため、IUCNに絶滅危惧種として登録されている。また2007年6月にハーグで開かれたワシントン条約締約国会議において、ブラジルボクは同条約附属書に記載された。
わかりにくい言い回しですが、つまりは国際自然保護連合(IUCN)という国際団体に絶滅危惧種(EN:7ランクの真ん中、下図参照)であると指定され、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引における条約(ワシントン条約)締約国会議で「フェルナンブーコの輸出入には輸出国の政府が発行する許可書が必要とする」と決められ(同条約附属書に記載され)ました。
IUCNレッドリストカテゴリー
そして、その輸出国であるブラジル連邦共和国はフェルナンブーコの原木などの輸出には許可書を発行しない方針ですので、木材はブラジルからの輸出が事実上禁止されています。
ですが、いまだに日本のメーカーでも新作の楽弓をフェルナンブーコで製作しています。
それはブラジルが輸出を制限する前に多めに輸入したものを使い続けているからです。
これは、ブラジル以外の国にいるメーカー全てに言えることで、逆を言えば、ブラジル国内なら新しいフェルナンブーコの原木を手に入れることは可能だったりします。
そして、楽弓に加工されたものは輸出規制の対象になっていません。
今積極的に日本へも販売が行われているL’archet Brasilなどのブラジルのメーカーが作った楽弓がいろんなお店で買うことが出来るようになっています。
(L’archet Brasilの会社はアメリカにありますが、ブラジル国内で生産しています)
なんだか骨抜きな気もしますが、それでも過度の伐採に歯止めはかかっています。
そして、守るだけではなく増やす活動(植林活動)も行われています。
2000年、ブラジルボクの生態系保全を目的に研究や啓蒙活動を行う団体IPCI(International Pernambuco Conservation Initiative)が米国で設立され、2002年にドイツ、カナダでも設立された。2004年からはブラジル政府機関の協力の下、PPB(Programa Pau-Brasil)として植林活動を本格的に始動している。
さて、いまブラジルの熱帯雨林で起こっている大規模火災ですが、一番大きな規模の場所はブラジルの西側・ボリビアとの国境側なので、フェルナンブーコ原産地とは離れています。 しかし、小規模ながら東海岸側でも発生していますので、せっかく植林したものが火災にあっている可能性も否定できません。
熱帯雨林は7~10月の乾季に森林火災が起きやすく、落雷などで自然発生する場合もあるが、森林を焼いて家畜の放牧地や畑を作るため人為的に起こされている部分もあるそうです。ここまで大規模になったのは人間の手が大きく関与しているのではないかという報道も多いです。
世界の関心がここまで大きくなったので、ブラジル政府も放って置けなくなっているようですね。我々が出来ることはブラジル政府の動向を見極めて、SNSなどで呼びかけるくらいしか出来ませんが、それが大きな力になっていることも確かです。
出展・参考文献
BBC NEWS JAPAN: https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-49443871
L’archet Brasil: https://larchetbrasil.com/
Wikipedia
ブラジルボク: https://ja.wikipedia.org/wiki/ブラジルボク
Manilkara bidentata: https://en.wikipedia.org/wiki/Manilkara_bidentata
Pernambuco(州): https://pt.wikipedia.org/wiki/Pernambuco
ブラジル: https://ja.wikipedia.org/wiki/ブラジル