トリエンナーレは伝統的なバイオリン製作の地であるクレモナで行われます。
そして、同じ伝統的なバイオリン製作の地で開かれるコンクールがドイツにあります。
それが、ミッテンヴァルトで開かれる国際バイオリン製作コンペティションです。
正式名称は
Internationaler Geigenbauwettbewerb Mittenwald(独)
International Violin Making Competition Mittenwald(英)
です。
このミッテンヴァルトという街は18世紀の製作家であるMathias Klotz(マティアス・クロッツ:1653-1743)が製作していた地です。
ミッテンヴァルトに設置されたマティアス・クロッツ記念碑
彼は1653年にミッテンヴァルトで生まれ、そこから西北西にある当時から楽器製作の中心地であったフュッセンで職業訓練を行ったようです。その後、1672年から1678年までイタリアのパドヴァで修行をし、ミッテンヴァルトに帰ってきて開業しました。
ミッテンヴァルトはそれまではドイツの貧しい寒村でしたが、彼が弟子を多く育て、バイオリン製作が街の中心的産業になったおかげで一定の繁栄を手に入れたようです。
ドイツでも多くの製作家がいますが、彼はその中でもシュタイナーと肩を並べる重要人物で、後に切手のモチーフにもされています。
ドイツ連邦共和国 1993年発行 マティアス・クロッツ没後250周年記念
また、この街にはバイオリン製作の学校もあります。
正確にはバイオリン以外の撥弦楽器や木管・金管楽器のコースもありますので「バイオリン製作学校」ではなく「楽器製作学校」です。
正式名称は
Staatlichen Musikinstrumentenbauschule Mittenwald(独)
州立楽器製作職業専門学校ミッテンヴァルト(日)
です。
修業年数はバイオリンが3年半・他の楽器が3年で、バイオリン製作科を卒業すると「ゲゼレ(熟練職人)」の資格がもらえてます。これがあるとドイツの国家資格である「マイスター(親方)」の試験を受けることが出来ます。
トリエンナーレで優勝した園田さんはこのマイスターの資格を持っていますが、この学校の卒業生ではありません。マイスターの資格を持っていた無量塔蔵六さんの弟子だったので、すでにゲゼレの資格を持っており、ミッテンヴァルトの製作家であるヨーゼフ・カントゥーシャ氏の元で4年修行してから、マイスターの資格を取りました。
そして、そのマイスター試験で提出した楽器をトリエンナーレへ出展して優勝したそうです。
更にはバイオリン博物館もこの街にありますので、イタリアのクレモナと色々似ている所があります。
バイオリン博物館 外観(茶色の壁の建物)
バイオリン博物館のフライヤー
さて、そのコンペティションは1989年から約4年おきに開催されていて、最も近いもので2018年に開催されました。
その時はバイオリン・ビオラ・チェロの他にバイオリン弓・ビオラ弓・チェロ弓もカテゴリーが有り、そしてなんとその年に日本人が2人も優勝しています。
バイオリン部門で金子 祐丈氏、チェロ部門で永石 勇人氏が優勝しました。
2018年の第8回ミッテンヴァルト国際弦楽器製作コンクールでダブル優勝!
金子祐丈(左・ヴァイオリン部門)と永石勇人(チェロ部門)
ヴァイオリン情報館Vol.86より
金子 祐丈(かねこ ゆうじ)
愛媛県松山市生まれ。立教大学文学部卒業後イタリアへ渡り、クレモナの国立弦楽器製作学校、及びロンバルディア州主催の弓製作コースにてディプロマ取得。
その後ジェノヴァの製作家、楽器史家アルベルト・ジョルダーノ氏、クレモナの弓製作家エミリオ・ズラヴィエロ氏のアトリエに契約を得て就職し、歴史的作品と向き合いながら、新作楽器製作、楽器修理、弓修理の経験を積む。
2018年、第8回ミッテンヴァルト国際ヴァイオリン製作コンクール(ドイツ)、ヴァイオリン部門において、造形、音響双方で最高点を得てゴールドメダル。
2019年、12年間のイタリア生活を終え、故郷松山にて開業、市中心部、松山城下のアトリエにて、現在は新作ヴァイオリン製作を中心に活動する。
Yuji Kaneko Violin Maker HPより
永石勇人 東京ークレモナー
13歳よりクラッシック音楽を聴き始め、15歳の時にヨーヨーマの音楽に触れチェロに憧れる。
チェロをプライベート・レッスンで習い始め次第に楽器の音色、造形に惹かれ始める。
16歳の時、職人の道を考え始め日本を出る決意を固める。
2001年、ヴァイオリンの本場イタリアを目指し、当時ヴァイオリンの街と呼ばれたクレモナに移住。
クレモナの国際国立学校を経て、更なる研鑽のためイタリア人のためのミラノ弦楽器制作学校に移籍。ミラノにてルカ・プリモン、クレモナにてシルヴィオ・レバッジに師事しイタリア伝統という感覚、それに縛られない好奇心を学ぶ。
クレモナの制作工房haja&Chiをメインに制作活動を続け、音楽家のための楽器からプロジェクト楽器まで手がける。
日夜、楽器を考え、音楽を思う。ヴァイオリン数本、チェロ3本に限定制作し、一つ一つに終始一貫したコンセプトを盛り込む。
音作りへの探求と挑戦。そしてなにより、楽器づくりを楽しんでいる。
haja&Chi HPより
両者ともイタリアのクレモナの製作学校を卒業した、新進気鋭の製作家です。
私達夫婦もクレモナでの修行時代が彼らと同時期で、二人共交流があり、金子くんは学校で同級生でした。
受賞したときは私達は帰国していましたが、この二人が受賞したのを聞いてとても嬉しかったのと同時に、「先を越された~」という悔しさもありましたね。
クレモナに行った日本人は例外無く優秀な人ばかりで、本当にすごいです。
私達も負けていられませんね。