木工作業では削った面が「平面から直角か」、といったことを確認するため「スコヤ」(英語のSquareが語源)という工具を頻繁に使います。
「スコヤ」と言うと一般には「台」という短い側の辺の作りが土台のようになっているものを指します。直角を確認するのが直角定規(スコヤ)、角度を自由に変えられるものを自由定規(自由スコヤ)と呼びます。
大工さんがよく使うのは指矩(サシガネ、差し金とも)という、定規が折れ曲がったようなもので、台が付いてないものです。(「これは誰のサシガネだ!?」のサシガネは文楽の人形を動かす棒と紐の仕掛けや、歌舞伎の小道具で蝶や鳥を操るときの竹竿が起源だそうです。)
黒い大きいほうが指矩、小さい方がスコヤ
フランス百科全書でもいわゆる目盛りのついた「定規」はあまり見受けられませんが、コンパスや直角定規といったものはたくさん載っています。
第4部 技術 8木材技術:指物細工(建具)
直角定規,先のとがった打ちこみ矢(ドリフト),小づち(マレット),ハンマー,長さを測る器具(ゲージ)
fig.61がスコヤ、fig.62は自由スコヤ
ストラディバリも当然使っていました。
Antonio Stradivari disegni modelli forme MS700
現代ではJIS(日本工業規格)に準拠している高精度のものから、そうではないが十分な精度を持ったものが製品として販売されています。JIS準拠のものは一般的には金属加工で用いられています。木工ではどんなに精密に作業してもその差を埋めることは難しいですし、そこまでの精度を求めたところで誤差範囲内であまり意味がないので、どっちを使っても申し分ありません。
当時のスコヤは手作りの木で出来たものですが、現代でもきちんと作ってあるなら手作りのスコヤを使用しても問題ありません。
実際に私が使用している手作りのスコヤ
他にバイオリン製作では厚み測定をする機会も多く、特に響板は厚みが場所によって違うので、広い板の一部だけを測定する事ができる「厚み測定器」(英語でキャリパーという)専用工具を使う場合が多いです。
様々な測定器、一番右の大きなものが厚み測定器(キャリパー)
特にキャリパーのダイヤル部分は精密機械ですので、18世紀には当然ながら存在しませんでしたが、同様のものはありました。
Antonio Stradivari disegni modelli forme MS661
第2部 文化 音楽・楽器:楽器 弦楽器製作用の諸道具 図36
「何この火バサミみたいなの?」と思われるかも知れませんが、れっきとした測定器です。これは左右の開く所が同じ間隔だけ開く様に作られていて、片側で何かを挟むと、反対側にその挟んだものの厚みと同じ分だけ間隔が出来ます。その間隔を調べればどれだけの厚みがあるかわかるようになっています。
おそらくは自作の目盛りを付けた定規で確認したか、逆に任意の厚みの木片を片側で挟んでから隙間に板を入れて木片より厚い部分がどこか、という風に確認していたのでしょう。
現代のものよりは測定に時間がかかるかも知れませんが、十分測定可能ではあります。
また、現代とほぼ同じものもあります。
第2部 文化 音楽・楽器:楽器 弦楽器製作用の諸道具 図25
DICTUM Marking Calliper
こちらは任意の厚みを最初に設定して、それより厚い部分に鉛筆などで記しをつける工具です。
以上のように、測定機器でも現代と遜色ないものでした。
「じゃあ、もう工具は現代と同じだったで良いんじゃね?」
と思ってしまいますが、現代の様な工具が無かったものもあります。
それが「クランプ(圧着工具)」です。
特にF字クランプは現代ではよく使用されていますが、当時はありませんでした。
では、その代替品は何だったのか、次回は当時の圧着方法も含めてお話したいと思います。
参考文献
Fondazione Museo del Violino Fausto Cacciatori監修 「Antonio Stradivari disegni modelli forme」
大阪府立図書館 デジタル画像 フランス百科全書 図版集: http://www.library.pref.osaka.jp/France/France.html
DICTUM GmbH https://www.dictum.com/en/measuring-inspection-instruments-jbo/marking-calliper-707015