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フィッティングパーツ④

エンドボタン

 バイオリンのフィッティングパーツの中で最も小さく目立たないのが「エンドボタン」です。

 しかし、これが無いと楽器に弦が張れませんから、とても重要なパーツです。

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 このエンドボタン、バイオリンやビオラが誕生してから長らく変化はありませんでしたが、近年変わったものが現れるようになりました。

 それまでのものは基本的に装飾があるか、無いかの違いくらいしかありませんでした。

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Endbutton, Standard, Ebony, Violin

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Endbutton, Grooved, Ebony, Violin

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Endbutton, Mother of Pearl Eye, Ebony, Violin

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Endbutton, Parisian Eye, Ebony, Violin

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 © Tempel

 ところが近年は様々なメーカーが少し変わったものを発売しています。

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STRADPET ®

 上のSTRADPETは軽金属のチタン製で、真ん中に穴が空いているモデルもあります。

 形というよりも材質によって音が変わる商品ですね。

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© ACURAMEISTER

 そしてこちらのものは材質が木材ですが、中心に穴が空いていながら従来のものと変わらぬ外観になるように工夫されています。

 これらの中心に穴が空いているモデルは音を変化させることが目的ではなく、魂柱をエンドボタンを取らなくても覗くことが出来る様に工夫されたものです。

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 なので、穴が空いているのはどちらかと言えば技術者向けの改良です。

 そして、なかなかに興味深いものがZMTの販売しているこちらのエンドボタン

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 エンドボタンを六角レンチで回すとテールガットが引っ張られてテールピースが動くと言うもの。構造がなんとなく想像はつきますが、それでも不思議です。

 なぜテールピースの位置を動かすのかというと、駒からテールピースまでの長さを変えることによってそこに張られた弦の僅かな共振の程度を変え、音色を変化させるためです。

 これはどのフィッテイングパーツを使用しても考慮しないといけないことなので、私も含め多くの技術者はテールガットの長さを決めるのに気を使っています。

 実はこの商品以外にもエンドボタンではなく、テールピースに調節機能が付いたものがWittnerから出ています。

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 テールガットの長さを調整するのに、今まではテールピースを楽器から取り外してからでないと出来ない、つまり弦を全て緩めて取り外すので駒と魂柱の位置が変わる可能性があったのですが、これらを使用すれば弦を張ったまま、駒・魂柱を動かすことなく調整することが出来るのです。

 ここの調整は本当にシビアですから、これらの商品はとても有効なのですが、まだまだ発展途上でもっと多様性が出る必要があると感じます。

 なぜなら、使用者の好みによって様々なタイプを選べるほどには商品展開していませんので、デザインが気に入らなければ使用されないのです。

 「音が良くなるならいいじゃん」

 と思われるかも知れませんが、実は音色などは楽器の持つポテンシャルよりも演奏者の技術力やモチベーションの方が影響力が大きいのです。

 気に入らない楽器では良い音色も出ませんし、良い演奏も出来るはずがないのです

 これは私が何度も言ってきた「オールド楽器の実力」であったり「楽器を選ぶ上での心構え」にも通じることです。

 さて、この様に近年はエンドボタンですら進化を遂げてきていますが、これらはどちらかと言うと楽器の調整をしやすくするために進化してきた様です。

 ところが今から45年位前に、音色を変化させることを目的としたエンドボタンが発明されたことがありました。

 それは、アメリカのバイオリンメーカーであるカルボーニ(William Carboni)が発明したカルボーニボトム(Carboni Bottom)です。

 中心に穴が空いているアルミニウム製のエンドボタンで、これを使用するとまろやかな音に変化するというものです。穴をコルクなどで塞げば元々の音色に戻るのだそうですが、それが本当なのかどうかは私は見たことも演奏している所を聞いたこともないのでなんとも言えません。

 ネット上でも全くヒットしないので、謎のままです。

 もし知っている方がいらっしゃったらお教え下さい。

 ちなみに、私が製作した楽器の中に上述のACURAMEISTERのエンドボタンを使用している楽器があるので、試しに穴を塞がずに演奏してみたことがあります。

 印象としては、音量が若干上がったような気がしましたが、音に深みがない空気が抜けているような音色になりました。当然塞いだ時と比較しましたが、音量もそこまで大きくなるわけでもなく、私は穴を塞いだほうが深みのあるいい音色だと思いました。

 これがカルボーニボトムと同様の結果かどうかわかりませんが、発明されてからその後に消えていることを考えると、あまり好評ではなかったのではと思います。

 上述のSTRADPETのものでも同様な仕組みであるにも関わらず、穴を塞がない時の音色に関しては全く記載されていませんでしたから、案外好ましい結果が得られないものなのかも知れません。

 ここまで、バイオリン・ビオラのエンドボタンについて、近年までほとんど進化を遂げ無かったとお話してきました。しかし、チェロのエンドボタンはエンドピンとして大きく変化してきた歴史があります。

 ということで、次回はチェロのエンドピンについてお話しようと思います。