前回に引き続き、圧着で使われた工具を考えていきます。
- 横板とブロックの接着→棒と紐で圧着
- 横板とライニング(糊代部)の接着
- ネックとアッパーブロック部との接着(釘も使用)
- 響板の接ぎ合わせ
- バスバーの接着
- 響板と横板の接着→スプールクランプ
- 指板製作で行う合板製作
- ネックと指板の接着
2.横板とライニング(糊代部)の接着は、現代では木製の洗濯バサミを改造して使用しているのが一般的です。
ですが、きちんと横板と同じ形に曲げると、殆ど圧着が必要ないほどに密着させることが出来ます。私が実際に洗濯バサミを使用せずに接着した様子です。
真ん中のCバウツ部分は構造上ぴったりにしても離れてしまう為、木片に切れ込みを入れたもので押さえていますが、その他のところは全く圧着工具を使用しなくても密着します。そして、ライニングという部分は共鳴胴の内側にあり、強度・寸法・外見に殆ど関係しない部分になります。もしこれ以上に隙間があったとしても、そこに何かを埋めたりするだけで良く、大きな問題にはなりません。
ただ、ストラディバリはきちんと作っていたようです。なぜなら、共鳴胴を開けた写真を見る限り、きちんと接着されているからです。
THE "SECRET" OF STRADIVARI P.53 1747年製「Il Delfino」・1711年製「Kreisler」の内部
ライニングを圧着した工具は18世紀当時のものは残っていませんが、1900年代の工具は残されていて、ヘアピンの様にUの字に作られた小さな針金で出来ています。
Antonio Stradivari disegni modelli forme MS650
ストラディバリが全く同様なものを使って接着していたかわかりませんが、絶対にクランプが必要な作業ではないので、現代と大きな違いは無いでしょう。
3.ネックとアッパーブロック部との接着(釘も使用)
以前の記事「バイオリンの改良と発達」でお話しましたが、18世紀当時はバロックバイオリンを製作していました。ですので、ネックは共鳴胴が出来る前に横板に接着しないといけません。
釘で補強されているとは言え、横板とネックは接着していないと弦の強度には到底耐えられなかったでしょうから、必ず接着していると思います。
更に、バイオリンの中では弦の張力がかかる重要かつ強度の必要な部分ですので、接着時には必ず圧着していたはずです。
この作業、実はきちんとネックの根本を横板の形に合わせてあれば、接着直後にすぐ釘を打ちこむことで、クランプを使用しなくても圧着できます。
以下は実際の工程です。
接着前にネックの根本の形を横板に合わせて整形します。
そして接着後すぐに釘を内側から打ち込みます。
これならば、釘で補強しつつ、圧着できるという一石二鳥です。
この作業では釘が3本使用していますが、当時も3本使用していました。
(チェロは5本使用していました。)
下の写真はA. Stradivari 1714「Soil」の継ネックをするために取り除かれたネックです。ネックの接着部に釘の跡が3つあります。
THE "SECRET" OF STRADIVARI P.102
ただし、「補強」という意味合いでは裏板側の一本だけで十分です。
下の図を見て下さい。
まず弦がネックを引っ張ります(黒い矢印)。すると表板との接地点が支点になり(青い点)、ネックの裏板側に逆に引っ張る力(赤い矢印)が発生します。
これでは、表板側の釘はほとんど補強の意味が無い(全く無いわけではありませんが効果は少ない)ことを考えると、表板側の釘は圧着のために使用されていた可能性があります。
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さて、他にも気になる点があります。再現写真で机の万力にネックを固定していましたが、この様な万力が当時あったのか?
全く同じではありませんが、同様に材料を机に固定して作業している様子が百科全書のいつものページに載っています。
第2部 文化 音楽・楽器:楽器 弦楽器製作者の仕事場
大きなネジは当時の手作業でも十分精度の高いものが作れたようです。
また、木で作られたスプールクランプを作れるのですから、このネジを使った万力も作れたでしょう。
Antonio Stradivari disegni modelli forme MS636
実際に今でもクレモナの製作学校では木のネジを使った万力のついている作業台が使用されています。
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- 横板とブロックの接着→棒と紐で圧着
- 横板とライニング(糊代部)の接着→あえて圧着の必要なし、またはヘアピンの様な針金
- ネックとアッパーブロック部との接着→万力の付いた作業台で固定して釘で圧着と補強
- 響板の接ぎ合わせ
- バスバーの接着
- 響板と横板の接着→スプールクランプ
- 指板製作で行う合板製作
- ネックと指板の接着
残り半分ですね。
果たしてこの中にCクランプを使用しないといけない作業があるのでしょうか?
出典:参考文献
Fondazione Museo del Violino Fausto Cacciatori監修 「Antonio Stradivari disegni modelli forme」
Eric Blot Edizioni Simone Fernando Sacconi著 「THE "SECRET" OF STRADIVARI」
大阪府立図書館 デジタル画像 フランス百科全書 図版集: http://www.library.pref.osaka.jp/France/France.html