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楽弓の貴重な材料②

黒檀

 楽弓は材料のほとんどが貴重な材料で出来ていると言っていいのですが、そうでもなさそうなものもいくつかあります。

 現在販売されている一般的な新作楽弓で使用されている材料を見てみましょう。

  • スティック → フェルナンブーコ
  • チップ → 牛骨
  • 金具 → 銀
  • フロッグ → 黒檀
  • スライド → 真珠貝 (スライドとはフロッグの下にある毛を隠している部分)
  • 毛 → 馬毛
  • ラッピング → 銀線・革(カンガルー・牛等)
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 この中で貴重ではない材料は「牛骨」「革」「馬毛」「真珠貝」です。

 牛骨と牛革は肉牛を酪農で生産してたくさん育てているので絶滅の危険はありませんし、たくさん手に入れられます。

 馬毛も日本ではあまり一般的ではありませんが、海外では馬肉は普通にスーパーなどで牛と並んで販売しているほど一般的な食材であり、牛と同等です。特に楽弓の馬毛に適していると言われるペルシュロンという品種は馬肉としても育てられ、葦毛(白馬)の多い品種です。

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ペルシュロン

 カンガルーは1970年代に一時絶滅危惧種と指定されましたが、1995年にはリストから外されました。個体数の増えすぎによる農作物への獣害などが問題となり、オーストラリア当局は、カンガルーの間引き駆除は必要であるとして年間の駆除割当数を設定して狩猟を許可しています。

 オーストラリア政府によると、国内のカンガルー生息数は2017年の調査でおよそ5000万頭となっていて、こういったことを根拠に駆除されたカンガルーの肉や皮革が輸出されています。

 カンガルーの革は柔らかくてしなやかなうえに丈夫なので、主な利用はサッカーのスパイクシューズなどのスポーツ用品やバッグなどですが、楽器では楽弓以外には三味線などにも利用されています。

 (余談ですが、動物愛護団体から犬猫の革を使用することは道徳的ではないと指摘もあり、カンガルー革の使用が増えているそうです。)

 真珠貝も養殖が盛んですので、手に入れるのは難しくありません。真珠を生産するために養殖していますが、真珠を取り出した後の貝殻はボタンやネクタイピンなどの装身具にも使用されています。

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養殖のアコヤガイ

 でも「黒檀」はそこまで入手が難しい材料のような気がしませんよね。

 東急ハ◯ズなどのDIYストアで簡単に購入可能です。

 そして、特にバイオリン以外の楽器全体でも、黒檀は多く使用されています。

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黒檀

 例えば、ピアノの黒鍵、ギターの指板、クラリネットなどの木管楽器の管などです。

 ちなみにバイオリン本体では指板やペグ・テールピース・顎当てなどにも使用されています。

 今では木管楽器用にはグラナディラなど、代替材料になっている楽器も多いですが、バイオリンは未だ黒檀を使用し続けています。

 Wikipediaにはこう書いてあります。

コクタン(漢字表記:黒檀、英名:Ebony、エボニー)は、カキノキ科カキノキ属の熱帯性常緑高木の数種の総称。 インドやスリランカなどの南アジアからアフリカに広く分布している。 木材は古代から世界各国で家具や、弦楽器などに使用され、セイロン・エボニーは唐木のひとつで、代表的な銘木である。

 黒檀は一つの種を指した名称ではなく、カキノキ属の硬く重量がある黒色の木材を総称して「黒檀」と呼んでいます。

  • Diospyros ebenum  通称、セイロン・エボニー、本黒檀
  • Diospyros celebica  通称、マカッサル・エボニー、縞黒檀
  • Diospyros malabarica  通称、ブラック・アンド・ホワイト・エボニー、斑入黒檀
  • Diospyros mun 通称、ムン・エボニー、青黒檀
  • Diospyros crassiflora 通称、アフリカン・エボニー
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マカッサル・エボニー

 さて、そんな黒檀ですが、IUCNレッドリストで2018年7月にVU(Vulnerable:傷つけられやすい)に分類され、絶滅危惧種にカテゴリーされました。

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 IUCNの原産地表記がカメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ、ガボン民主共和国、ナイジェリアとなっていますから、アフリカンエボニーが適用されているようです。

 Wikipediaにもこのように記載されています。

マダガスカルでは欧米やアジアで銘木と言われる近縁種の樹木が多く生育していることから、近年木材産業が非常に盛んになっている。 特にアフリカン・エボニーは古くから高級家具や楽器で愛用されているエボニーの近縁種であるため、現地の物価としては非常に高値で取引され、原産国の武装ギャングによって、私有地や国立公園の産業用でない樹木が強奪されることがしばしある。 現在、治安の安定化とギャングの資金源を断つために、ワシントン条約の附属書Ⅱに登録されており、加盟国内から輸入する際には生産者の販売証明書類の提出を求められている。

2012年には、アメリカのギターメーカーであるギブソン社が、現地の木材販売業者から証明書類を取得せずにマダガスカル・エボニーを輸入したとして30万ドルの罰金を司法当局から命じられている。

 すでにワシントン条約でも規制され、実際に楽器メーカーが取り締まりによる罰則を受けています。

 このように、楽器の材料・特に楽弓の材料を巡っては、年々規制が厳しくなってきています。10年前は黒檀がワシントン条約に抵触するとは思われていませんでしたが、もうそうはいっていられなくなってきました。

 そして、代替材料として注目されたグラナディラ(アフリカン・ブラックウッド)も現在ワシントン条約附属書Ⅱの適用対象になってしまいました。

 このように見てくると、特にアフリカが原産となっている材料の多くが絶滅の危機に瀕していて、これにはアフリカ諸国で問題となっている武装ギャングが大きく関与しているようです。

 ただ、この問題は紛争や貧困、西洋的モラルの押し付けなど、多くの複雑な問題をはらんでいますので、簡単には解決できません。

 我々消費側の者としては、これ以上少なくならないように植林や保護といった活動に参加することや、情報収集と発信を心がけて、少しづつでも改善されていくことを期待していきたいと思います。

 また、グラナディラのように代替したために絶滅に瀕するといったことのないように、きちんと持続可能な代替材料を見つけたり、生み出した上で、積極的に切り替えていくことも必要でしょう。

 出典・参考文献

 ナショナルジオグラフィック 年間140万頭、豪のカンガルー猟は是か非か: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/112400130/

 Wikipedia

  ペルシュロン: https://ja.wikipedia.org/wiki/ペルシュロン

  アコヤガイ: https://ja.wikipedia.org/wiki/アコヤガイ

  コクタン: https://ja.wikipedia.org/wiki/コクタン

  カキノキ属: https://ja.wikipedia.org/wiki/カキノキ属

  アフリカン・ブラックウッド: https://ja.wikipedia.org/wiki/アフリカン・ブラックウッド

 THE IUCN RED LIST OF THREATENED SPECIES : https://www.iucnredlist.org/