突然ですが問題です。
バイオリンの駒が立つべきところはどこでしょう。
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正解は、F字孔の刻みの位置・・・ではなく、弦長が328~330mmの所です。
一般的にバイオリンの事が書かれている書籍やサイトを見ると「F字孔の中心部分にある刻みに駒足の中心を合わせる」と書いてあるのを見たことがあるかもしれません。
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確かに大きな意味で言うと間違いではありませが、厳密なところで言うと弦長で判断します。
弦長とは、上ナットから駒の弦が乗っている所までの長さ、つまり弦が音を出す部分の長さを言います。
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そして、その弦長が328~330mmが理想的な長さとなっています。
バイオリンは0.1mm単位で加工されていて、各部の寸法も厳密に組み立てられています。
そして、その中でも「ストップ長」と呼ばれる表板のネックの付け根からF字孔の刻みの長さと、「ネック長」と呼ばれる上ナットから表板の縁までの長さは「弦長」を決める重要な部分なので、細心の注意を払って作られます。
特に「ネック長」はネックの仕込みで決まる上に、駒の高さも決定するので、ネック仕込みの作業はかなり厳密に行います。
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上の図を見て頂くと、バイオリンがどの様に設計されているかわかると思います。
そして、上図のようにネック仕込みが出来れば、弦長は理想値になります。
実際にそうなるか、直角三角形の3辺の長さの関係を表した数式、ピタゴラスの定理の単純計算で見てみましょう。
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ピタゴラスの定理
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a=325(ネック長:130+ストップ長:195)
b=48.5(表板の高さ:15.5+駒の高さ:33)
として計算すると
(325×325)+(48.5×48.5)=107977.25
c=√107977.25=328.5989197...
となります。
私の経験からは328.5mmよりは長めになりますので、実際は計算より長めになると思います。
さて、以上の結果から、書籍やサイトの言うことは
「(ネック長とストップ長が正しく作られた、あるいは弦長が正しく作られた)バイオリンの駒の立つ位置はF字孔の中心部分にある刻みに駒足の中心を合わせるのが正しい」
と言うことであれば、間違っていないことになります。
なぜ、敢えてこんな事を言うかというと、世にあるバイオリンの多くがネック長とストップ長が正しい値で作らえていないからです。
それはストラディバリウスであってもそうで、特に古い楽器になれば多くなります。
なぜなら、この数値の規定が19世紀のモダンバイオリンが現れだした頃に決まったからです。
厳密に「誰がこの数値に決めた」というわけでは無く、長い歴史の中でモダンバイオリンの形が決まっていった様に、数値も徐々に決まっていったのでしょう。
当然、それ以前の楽器はネック長が短かったですし、ストップ長と言った概念も決まった数値ではなくF字孔の位置を楽器の外周からの比率で求めていたので楽器によって様々でした。
もともとバロックバイオリンと現在言われている楽器であったものは、後にネックを改造される時に、弦長からストップ長を差し引く計算をしてネック長を決めています。
つまり、ストップ長が長めの楽器はネック長を短めに、ストップ長が短ければネック長を長めに、弦長が328~330mmになるように作り変えられています。
ですので、古くてもきちんと弦長が正しく作られた楽器であれば大きく問題はありません。
問題になるのは廉価な楽器です。
古くても現在の新品でも、廉価な楽器は弦長をきちんと作られていない楽器がほとんどです。
きちんとした弦長にするには、ネックの仕込みを厳密に行う必要があり、そのためには作業にかける時間を長く取らないといけません。しかし、原価が低い楽器は最も費用のかかる人件費を削減するのが最も手っ取り早い方法ですので、すべての作業で精度の高さよりも時間の短縮が図られるからです。
といっても長さの差はせいぜい2~3mm程度、バイオリンにはフレットがないので弦長が違っても演奏することは可能で、実際には気がつく人は多くありません。そのため、業界内では安いものは安いなりに仕方がないと思われているのが実情です。
ですが、弦長は弦を押さえるポジショニングに関係しますので、無意識のところで弾きにくくなってしまうことがあります。思い当たる人は一度弦長を確認してみて下さい。
ただし、自分で駒を動かすことは絶対にしないで下さい!
駒は弦から大きな圧力で押さえつけられています。場合によっては駒が倒れて割れたり、テールピースが表板を打ち付けて表板が割れてしまう場合があります。
また、前回お話したように、魂柱は駒との距離で音の変化が現れます。
駒を動かすことは魂柱を動かすことと同じことだと思って下さい。
駒の位置をなおす時はくれぐれも弦楽器専門店に相談して下さい。